2つの記事で、メダカの遺伝の固定の事を考えてきました。今回は実際にぬくもりめだかが行っている「サムライメダカの形質の安定」です。
サムライメダカは、一般のめだかを育てているブリーダーさん達からよく聞くのは「サムライ表現の遺伝の固定は難易度が高い」ということです。前回お話した、「たくさん育てる → 選ぶ →兄弟で交配 → また選ぶ」のメソッドだけではなかなかうまくいかないという通説があります。
サムライの遺伝の固定は生物学的にがレアで難しいのか?
しかし、学術的にも、メダカのヒレ形(背・しり・尾)の分岐や重複は単一遺伝子変異で生じうることが古くから知られています(例:鏡像的に腹側構造が重複する「Double anal fin(Da)」など)。つまり「ヒレの形は一遺伝子変異でも大きく変わる」ことがある分野です。Wiley Online Library+2PMC+2
さらに近年は、背ビレ消失やヒレ条数の変動といった表現型が、Hox(hoxc11a など)や zic、エンハンサー(ZRS/sZRS)といったヒレ発生経路の遺伝子・調節領域に起因しうることも示されています。これは「ヒレ形態の変化が特定の遺伝子/調節配列の変化で起こり得る」ことの裏付けになります(サムライでの“原因遺伝子の同定”は公的報告未確認)。omia.org+2Cell+2
少しむずかしい話をしましたが、サムライの遺伝の固定も単一遺伝子の変異によるものなので、他の遺伝の固定と生物学的には変わらない。ということです。
じゃあ、なぜ難しいと言われている?
遺伝的には難しさは変わらないはずなのに、なぜ「サムライは遺伝しない」「サムライは難しい」という風説が流布しているのでしょうか。結論から申しますと、サムライの遺伝の固定は、「良いサムライ個体を見分けるのが難しいから」です。主に原因は以下の3つです。
表現のぶれ:同腹でも「くっきり分岐/うっすら/無分岐」が混ざる(浸透度・表現度の違い)。ヒレだけが着目点なのでなかなか上見からだけでは良い個体を判別しづらく、選別に失敗します。
判別時期:しっかり分岐と断言できるのは体長が伸び、ヒレが完成してから。早期選別がしにくい。なので、小さいうちに選別ができないので、そのときにはすでに「非サムライの選別がなされてしまう」
外傷との混同:ヒレ裂け(外傷)と遺伝的な分岐の見分けが要る。
ということです。つまり、良いサムライ個体を選別するにはある程度大きくなってから、しっかりと上見と横見で判断する必要があります。この過程がなかなか手間で、慣れていないとサムライじゃない遺伝子がまじります。
サムライじゃない遺伝子が一度混じってしまうと、また遺伝の固定に大幅な手戻りが発生してしまう、これらのことからサムライの遺伝の固定は難しいのです。
どうすればいいか?
具体的なF0からF3までの選別イメージです。以下のプロセスを見ても非常に手間がかかることがわかります。ましてや他の要素(たとえば体色やラメの入り方など)と合わせて選別をしていたら、気の遠くなる確認項目と作業工程です。
P(親選び)
- 背/尻ビレのくっきり分岐・左右対称・泳ぎ良好の個体のみ。
- 裂け跡ではないことを数週間観察して確信。
F1(数で押す)
- 80~120匹は取り、週1で動画/写真記録。
- 体長が乗ってから「くっきり分岐」を上位10~20%だけ残す(迷い個体は外す)。
F2(分離を利用)
- 上位個体の兄弟ペアを5~10組作る(ライン分け)。
- 各ラインから20~30匹/ラインを育成し、最上位のみ親へ。
- ここで“見える割合”が体感で倍近くに上がることが多い。
F3(実用固定域へ)
- ライン間のトップ同士を再ペアリング。
- 目標:見える個体60~80%。それでも非分岐が少数交じるのは普通。
- 体格・鱗並び・泳ぎの良さを同時に選ぶ(形だけ優先しすぎない)。

ぬくもりめだかの現状
いうがやすし行うは難しで、ぬくもりめだかも頑張ってはいますが、9割固定にはまだまだほど遠い現状です。ただ、ようやく累代2代目で、3割以上のサムライ表現の発現が実現するようになりました。
引き続き、気を抜かず頑張っていきます。ということで、ぬくもりめだかのサムライメダカは他のサムライメダカよりもちょっとは形質の発現の確率が高いかもしれません?!
