メダカというと、夏の水路や田んぼで元気に泳ぐ姿を思い浮かべる人が多いかもしれません。でも、日本の豪雪地帯にも、たくさんの野生のメダカが暮らしています。真っ白な雪の世界と、小さな魚のメダカ。一見関係なさそうなこの二つには、じつはとても深い結びつきがあります。
まず、雪はメダカにとって「冬を生き抜くための道具」になります。冬になると水面は氷におおわれ、その上には雪が積もります。この氷と雪の二重のフタが、冷たい外気から水を守り、水底の温度を4度前後に保ってくれるのです。メダカはその比較的あたたかい水底付近でじっと動きをおさえ、エネルギーを節約しながら春を待っています。

春になると、こんどは雪どけ水がメダカの味方になります。山から溶けた雪が田んぼや用水路に流れこみ、新しい水と栄養分を運んできます。水温が少しずつ上がるこの時期は、メダカたちの活動再開の合図。エサとなるプランクトンも増え、産卵にも適した季節がやってきます。雪どけは、メダカにとって「一年のスタートボタン」のような役割を果たしているのです。
雪は、メダカのすみかそのものも形づくっています。豪雪地帯では、春の雪どけで一時的な水たまりや小さな流れがあちこちにできます。そうした場所が、メダカやほかの水生生物にとって格好のゆりかごになります。田んぼや農業用水路が豊かな水辺となるのも、もともとは雪がたっぷり降る地域ならではの風景と言えるでしょう。
一方で、雪との関係が変わりつつある面もあります。除雪や融雪のために水路の流れが速くなりすぎると、メダカの冬の「隠れ家」が減ってしまうことがあります。また、地球温暖化で雪の降り方やとけ方が変われば、水温の変化が急になり、メダカにとって負担になる可能性も指摘されています。雪国のメダカを守るには、人の暮らしと生き物の暮らしのバランスを考えることが大切です。

もし自宅のビオトープや庭の睡蓮鉢でメダカを飼っているなら、雪国の知恵を少し真似してみるのもよいかもしれません。冬は水を深めに保ち、急激な水温変化を避ける、容器の一部に断熱材をまくなど、小さな工夫で「雪の毛布」に近い環境をつくることができます。
雪は、私たちにはときに厄介な存在ですが、メダカにとっては「守ってくれるフタ」であり「命をつなぐ水の源」でもあります。冬の間は姿が見えなくても、雪の下ではちゃんと次の季節への準備が進んでいる――そんなことを思い浮かべながら春の用水路をのぞいてみると、メダカとの付き合い方が少しやさしく、そして愛おしく感じられるかもしれません。
