ぬくもりめだかのスタッフの1人がはまっているのが、和墨というメダカの品種です。(写真は、ぬくもりめだかが飼育している和墨です。)
和墨は、写真のように、半紙に墨を散らしたような模様になるメダカです。特徴として背地反応を示さないということがあります。つまり、白色の容器に入れてもしっかりと黒色がなくなることなくしっかりこのまま墨の様子を観察できます。
そのため、白色の容器で写真を簡単に撮ることができます!
写真は墨(斑)ですが、縞が出てくる和墨もあります。今メダカ界隈ではやっている金閣や銀閣のメダカも和墨系統で、それが縞として入っているメダカたちのことをいいます。
しかし、ここでぬくもりめだかとしては、大好きな和墨のことをもっともっと調べたくなるわけです。
和墨を「どうして“墨”に見えるのか」という仕組みから、背地反応(保護色)との関係、模様(墨/縞)の入り方まで、科学とブリーダー情報を突き合わせて要点整理してみました。
1) “墨”に見える仕組み(生物学の土台)
- そもそも、メダカの体色は色素胞の配置と量で決まります。主役は黒のメラノフォア(黒色素胞)、黄のキサントフォア、銀のイリドフォア、白のロイコフォアの4種(メダカはこの4系統を持つのが特徴)。遺伝子レベルでは pax7a、Mitf、soxE 群などが分化に関与します。
- 発生~成長の過程で、色素胞どうしの相互作用で斑点・縞などの空間パターンができ、これが“墨を垂らした”ように見えます。
2) 背地反応(保護色)と和墨の関係
- 多くのメダカは、明るい容器で薄く/暗い容器で濃くなる背地反応を示します。これは短期の生理学的体色変化(メラノソームの凝集↔拡散)と、長期の形態学的体色変化(色素胞数や色素量の変化)に分けて説明されます。視覚入力→自律・内分泌系(ノルアドレナリン、MCH(メラニン凝集ホルモン)、MSH など)で制御され、メダカのメラノフォアはMCHに対し色素の“凝集(薄くなる)”で応答します。
- 一方、和墨系では「背地反応なし(薄くならない)」という形質が実用分類として明記されており、白容器やガラス水槽でも黒が消えにくいとブリーダー/ショップ情報が繰り返し報告されています。
3) 和墨の遺伝的背景(作出情報の要点)
- 作出ルーツの一説:和墨は「オロチのヒカリ体型 × 女雛」から生じた“黒斑の安定した個体”を選抜・固定して成立(作出者情報のまとめ)。“斑が明るい容器でも退色しにくい”のが肝。
- “背地反応なし”の黒系統(例:ブラック透明鱗群)が既に体系的に扱われており、分類補足にも載る→この性質が和墨の安定した黒を支えていると考えられます(趣味界の実務分類)。
- 関連系譜(例):金閣/銀閣は“黒斑アースアイ系”からの派生として紹介され、黒斑(くろふ)を強調した選抜の延長線上にあるとされます(ブリーダーの系統記述)。
4) “墨(斑)”や“縞”の入り方(観察・選別のポイント)
A. 斑(ぶち/黒斑)
- 定義:体側~背で黒いブチ模様が出る柄(“錦”柄の一種)。分類マニュアル/図鑑でも“柄(パターン)”として扱われます。
- 和墨の特徴:
- 白地(ロイコフォアやスケール表現)×黒斑(メラノフォア密集)の強いコントラスト。
- ヒレに入る黒の“刺(スジ)”が出やすく、リアルロングフィン化でさらに際立つ。
- 白容器でも黒が残る(背地反応なし)。
B. 縞(ゼブラ/虎柄)
- 虎柄(童虎など):縞状・帯状に黒が走る“ゼブラ系”表現。黒斑選抜の延長や別系譜の交配で縞優勢へ。
- 理屈の背景:色素胞間の相互作用(近接促進・遠隔抑制など)で筋状配列が安定化するのは魚類で実証済(モデル系:ゼブラフィッシュ)。選抜で筋の太さ・本数・位置が“固定率”として変わる。
C. 透明鱗か否かで見え方が変わる
- 透明鱗系は白地が“クリーム~半透明”寄りになり、斑が細かく見える傾向の説明が流通記事にもあります。非透明鱗は白地がよりクッキリし“墨”が“模様”として映る印象。
5) 実用:飼育・選別で知っておくと役立つ科学知識
- 短期で黒が薄く見える要因:一般系統は白背景→MCH/交感神経で凝集→薄く。和墨は“背地反応なし”のため薄くなりにくい(ただし極端なストレス・体調不良では艶が落ちる例も)。
- 長期の仕上がり:容器色や環境光は形態学的変化にも波及(MSH系等)、“色揚げ”や“黒の乗り”に影響し得るが、和墨は白でも黒が映るメリットがある—横見ガラス水槽でも柄負けしにくい。
- 個体差:黒斑の分布は個体ごとに固有パターンとして長期安定(研究用近交系での黒点配置の追跡データ)。選別の“柄読み”に科学的裏付け。
6) まとめ
観点 | ふつうのメダカ | 和墨(総称) | 根拠 |
---|---|---|---|
背地反応 | あり(白で薄く/黒で濃く) | なしが基本(白でも黒が残る) | 生理・内分泌機構の総説/メダカ応答、実務分類で「背地反応なし」表記、ショップ記述。 |
“墨”の正体 | メラノフォアの分布と可動性 | 高密度メラノフォア群+背地反応なしで“墨”が立つ | 色素胞の基礎と分化遺伝子。 |
柄の成り立ち | 斑・縞は環境と遺伝の複合作用 | 選抜で黒斑(くろふ)や縞(虎柄)を強化 | パターン形成の一般原理/黒斑系の系譜記事。 |
横見映え | 白容器・ガラスで黒が飛びやすい | 白でも黒が残る→横見向き | ショップ・解説の一致した記述。 |
参考(出典)
- 色素胞の種類と分化(メダカ):Kimura 2017(pnp4a/イリドフォア)、総説・原著多数。(Oxford Academic, PMC, Journal of Experimental Biology, the University of Bath’s research portal)
- パターン形成の原理(魚類):Nakamasu 2009(ゼブラフィッシュの相互作用モデル)。(PNAS)
- 背地反応の神経・内分泌機構(メダカ):岡村ほか(筑波大・実験資料)、大島(MCH応答性)。(筑波大学医学部, サイエンスダイレクト)
- 和墨の“背地反応なし/白でも黒が残る”という実務情報:専門店・分類サイト等。(medakanoyakata.jp, medakazukan.net, メダカ屋えん –, となりのカインズさん, 100年メダカ 第四章 〜めだかの館のブログ〜)
- 系譜・派生(黒斑→金閣/銀閣 ほか):Piscesbook の系統紹介。(ピスケスブック)